来 歴


私は中身


あなたにとってそれは
単なる石つぶてにすぎないのか
時に胸もと深く飛びこんで
せっかくの楽しい欲望を
ふいにしてしまうこ憎らしいおせっかい
でなかったら
せいぜいキャンディーとひきかえに
どこでもふらふらとついて行く
たよりない存在だと言ってもいい

人間の手や足は
はっきり形も色も見えるから
うまく育てることはたやすいが
見えない部分についてなら
誰がやってもうまく行くとは限らない
すぐに大きくなりたがる
自分のままにならない部分には
知らん顔をしてみせるほうが
万事やりやすいに違いないのだ
人々は魂を所有したつもりでいた
だから困りぬいていた
人間のからだはいれもので
魂は中身だと思いこんでいた頃
私だって魂は心臓の中にある
絶対に枯れない魔法の薔薇の花だと
頭から信じこんでいたものだ
魂は深いうつわだと言ったら
あなたは本気にするだろうか

しかし近頃のように
手や足が言うことをきかないと
すっかり魂に所有されてしまったと
思わないわけには行かなくなる
中にはいりこんでいる貧弱な私が
広すぎる魂の領域の中で
道に迷っているのではあるまいかとか
大きすぎる魂の衣裳のもすそにからまって
前進も後退もならないのではあるまいかとも

魂の領分 目次